愛して止まなかったパンダと別れたあとは、“走る”車を求めることになる。これはその頃つき合いのあった車好きな友人の嗜好とシンクロしたところがあり、若かりし日に宿る冒険心、つまり終いなき遊び心だったのだろう。
欧州連合が設立されて新法が施行されるまだ前のことだから、世紀を跨ぐそれ以前ということになる。道路交通法など走行の規制に関して前後では異なり、かなりの改正を強いられている。要するにいい加減に放っておくではなくて、他欧州諸国と足並み揃うように取り締まれる部分はちゃんと取り締まろうということであろう。安全の徹底ときちんとした罰則を与えるというあまりイタリア人にはそぐわない規則ではあろうが。それまではあまり規制されない、無法地帯的な運転がまかり通っていたように記憶している。
法定速度にあまり縛り(ドイツのアウトバーンのように)のない時代であったこともあり、高速道路をビューンとかっ飛ばしたいと、いかにも血気盛んな若者的な衝動、また仲間に煽られ影響を受けたことでドイツ車、フォルクスワーゲン ゴルフ(Golf GTI)のハンドルを握ることになる。それにしても同じ車種を2台つづけて購入することになるとは…。
まず、純白のゴルフを手に入れたのは1996年、春のこと。もちろん中古車だった。
行動範囲が広がったばかりでなく、時間さえ見つけては遠出できないものかとチャンスを伺ったのもこの車になってからである。オーストリアまで北上、そして往復したパンダとの旅は、喜ばしくありながらも不安とは常に背中合わせの冒険を強いられてきた。ゴルフも新車ではなかったが、アクセルを踏み込みさえすればしっかり要望に応えてくれる、いわば心配せずに頼れる相棒だったのだ。アウトストラーダ(高速道路)の追い越し車線を気兼ねなく進んでくれる頼もしいパートナーと巡り会えて言葉通り有頂天だった。
そのような円満な関係も僅か2カ月で途絶えることになる。
真夜中だったのだろう。寝ている間に空き巣に入られてしまい、金品ともかく車のリモコンキーを盗まれて、自宅前に駐車してあった相棒を難なく持っていかれてしまった。朝、いつも通りに寝室を出て、荒らされたリビングにまず青ざめてしまう。当時、アパートの地階(日本の1階)に暮らしていたこともあり、就寝中に開けっ放しの窓から入られてしまったらしい。財布や貴重品、置いてあった現金などもなく、とにかく被害届けを出さなければと車のキーを探すも見当たらない。ハッとして車の置き場に向かうとすでに停めてあったところにゴルフは見当たらずそこで再び青ざめたのである。
盗難届けを出した3日後に警察から連絡をもらい、車が見つかったことを知る。ただ、見つかった相棒は全身皮を剥がれてメタルが剥きだしになった状態、エンジンなくタイヤのひとつも残っていない。車はパーツパーツにバラされてブラックマーケットで売買されるのだという。
夏日の郊外にいて涙すら出てこなかったことを切なく思い出している。
堂満尚樹(音楽ライター)
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